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札幌地方裁判所 昭和39年(ワ)1016号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本件の争点は、建物に対して抵当権を設定する当時においてはその敷地所有者とその上に存する建物所有者が別人であり、両者の間には土地に関し賃貸借関係が存したが、その後建物所有者が他に建物を借地権とともに譲渡したところ賃貸人たる土地所有者が借地権の譲渡を承諾しなかつたため、譲受人から借地法第一〇条の建物買取請求権が行使され、その結果土地所有者がその土地上に存する建物の所有権を取得し、競売当時においては土地および建物が同一の所有者に帰属するに至つた場合に、民法第三八八条の適用あるいは類推を認め得るかということである。

法定地上権の制度は、わが民法上建物と土地とは別個の不動産として取扱われているが建物の存続にはその性質上土地の使用を必要とし、しかも土地建物が同一人の所有に属するときには、自己の土地に自己のための土地利用権を設定することは法律の許さないところであつて、土地又は建物の双方もしくはそのいずれか一方に抵当権を設定する場合には建物存立のための土地利用権は潜在的にのみ存し得るにすぎないので、(いわば土地だけを抵当に入れる場合には、建物に地上権をつけて留保し、建物だけを抵当に入れる場合には建物に地上権をつけて抵当の目的としたものとして)、競売によつて土地建物の所有者を異にするに至つてはじめて土地利用権が現実化され建物所有者のため地上権が設定されたものとみなし、もつて建物を建物として存置せしめようとするものであつて、社会経済上の必要に合致するのみならず、抵当権設定者の意図と抵当権者の予期するところにも副うものである。

しかし、抵当権設定当時土地と建物が異なる所有者に属した場合には、建物所有者との間に土地利用権が設定せられ、あるいはこれを設定する余地があつたのであるから、かかる建物の所有者や競落人に更に法定地上権を与える必要はないのであつて、民法第三八八条がかかる場合をも含むものとは解し得ないのである。他人所有の土地上に存する建物につき抵当権を付した場合には、建物抵当権の効力は建物に従たる敷地の利用権にも及び、後になつて土地所有者が抵当権付建物を所有するに至つたとしても、抵当権者の利益のため土地利用権を存続させておく必要があるから、土地利用権は混同によつて消滅することなく存続し、抵当権実行により建物競落人に承継される(もつとも、この場合土地所有者に対し土地利用権を主張し得るか否かは土地利用権の譲渡性と対抗力の問題である)。そうして抵当建物の土地利用権が地代不払による解除や、期間満了等により消滅したり、無断譲渡等のため土地所有者に対抗できないときに、土地所有者からの建物所有者に対する建物収去、土地明渡請求に対し、抵当権者は一般的にはこれを阻止することはできないし、またこの場合従来の土地利用関係が消滅したと同時もしくはその後競売が行なわれたときに建物所有者のための法定地上権が成立すると解するわけにもいかないし(土地所有者に不測の損害を与えることになる)、またかく解すべき条文上の根拠も見出し得ない。もともと抵当権者は、他人の土地上に存する建物に抵当権を設定する場合には、その建物敷地の利用権の強弱やその消長により抵当建物の経済的価値上影響をこうむることを見込んだ上でなすわけである。本件の如く、抵当建物が第三者に譲渡され、それとともに譲渡された借地権につき賃貸人から承諾を得られない限り、第三者は借地権をもつて賃貸人に対抗することはできず、賃貸人から請求があれば敷地の不法占有者として建物を収去した上敷地を明渡さねばならないし、従来の賃借人と賃貸人との間の敷地賃貸借関係も、買取請求権行使によつて現実に賃貸借契約の目的物である宅地上の建物を所有しこれを使用し得るに至るのは賃貸人であつて賃借人は土地を賃借した目的を失うことになるから当然に消滅するものと解せられ(大審院判決昭和九・一〇・一八民集一三・一九三二)、したがつて買取請求により賃貸人が所有するに至るのは建物そのもののみであつて、借地権を第三者から譲受けるわけではないのである(買取請求は賃貸人に借地権を主張し得ない場合に生ずる問題であつて、その時価算定に借地権価格を加えてはならないのもこの理由による)。そうとするならば、その後抵当権が実行せられても競落人は建物のみを競落し得るに止まり、すでに建物に従たる敷地の利用権は消滅しているからこれを取得するに由ないし、またこの場合法定地上権の成立を認め得ないのも前述したとおりである。

被告等はかかる場合にも競売当時土地建物が同一人の所有に属する限り法定地上権を認めるべきだとして種々理由をあげているけれども、その主張する理由中買取請求権行使の対象たる建物に抵当権が設定されている場合の当該建物の時価は、建物に抵当権が設定されていても減額すべきではないし(最高裁判決昭和三九・二・四民集一八・二・二三三)、かつまた競売当時に土地と建物が同一の所有者に帰属するに至つたのは、土地所有者が借地権の譲渡を承諾しなかつたため建物買収請求権を行使された結果であるのに、競落によりこれより更に強力な法定地上権の発生を甘受しなければならないというのでは、土地所有者の不当不測な不利益のもとに建物所有者・抵当権者の利益を図るということになり公平を欠く上、民法第三八八条、借地法第一〇条の精神にも反するから現行法の建前のもとではこれを是認することはできないのであつて、被告等の法律上の主張は採用しない。(朝岡智幸)

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